ユーゴスラヴィズム
映画「アンダーグラウンド」から読む世界の虚構!
はじめに・・・
1. メディア戦争
2. クストリッツァのバロキズム
3. ユーゴスラヴィズムとナショナリズム
4. 解体の謎
5. 解放への道
■註釈&参考文献
1.
メディア戦争
旧ユーゴの劇的な解体を理解するための第一歩は、この戦争に関するマスコミ報道でよく見られる決り文句を捨て去ることからはじまる。民族間の憎悪と恐怖の感情は、戦争の勃発によって悪化し拡大したが、全般化はしていなかったであろう。この背後でぞっとするようなメディア戦争が、敵対感情を爆発させたり意識を操作させたりするうえで、中心的な役割を演じたのは事実なのだ。
旧ユーゴの戦争の語り方について、国際的な世論の中に大きな変化が生じはじめたのは、1992年の春頃からである。ちょうど、「民族浄化」ーこの驚くべきボキャブラリーがボスニアで進行する事態を指示する言葉として流通するようになった時期だ。岩崎稔の論文「旧ユーゴの戦争と出来事の否認」に興味深い事例があるので、ここで取り上げたい。(以下要約)『アメリカのジャーナリスト、ロイ・ガットマンがニューヨークの日刊紙「ニューズデイ」にこの年送った記事は、人々に深甚な衝撃を与えたのだった。それは、ボスニアに非セルビア系市民に死を強いる二百近くの強制収所が存在するという指摘であった。そこには、抑留所の囚人自身が書いた調書に基づいて、残酷なセルビア人による民族浄化の描写がまざまざとしるしてあったのだ。「略ーかれらはわたしたちをナチス棒、角材や皮質のゴムでなぐり、軍靴で踏みつけにした。あるいは素手で、いたるところ、頭や、首、背中、殿部、脚、腕をなぐった。ひとりの警官に殴られるときもあれば、3人同時に、あるいはあるときには10人に殴られる時もあった。そうした拷問のあとで犠牲者は出血し、背中はあざだらけになった。」
こうしたレポートが数度にわたって「ニューズデイ」にスクープされた。そして頻繁に引用され、幾度も転載されることによって、それ以後のセルビア人のイメージが確定することに決定的な意味をもったのだ。しかし、このガットマンの発言は、極めて困難な状況の中から脱出してきた人々の証言に基つくものであった為に断片的で矛盾に満ち、また当事者の解釈や、不安の中での伝聞や推測を数多く含んでいた。
そこで、アメリカの新聞「エルパソ・ヘラルドポスト」のコラムニストであり、政治解説者であったピータ・ブロックは異論を唱えたのである。ガットマンの報道の中に典型的なセンセーショナリズム志向による誇張がある、と。「この時期のメディア全体が「猟犬ジャーナリズム」と呼ぶべきものに駆り立てられており、セルビアという特定の<悪>をあぶりだし、それを追いかけるというスタイルに終始していた。情報操作は、セルビアやクロアチアの戦争指導者によるプロパガンダだけではなく、ガットマンのような国際的なメディアにおいても存在している」というのであった。その為に、クロアチア人やムスリム兵士によるセルビア人の犠牲者の事例は数多く存在していたにもかかわらず、そちらの証言は意図的に黙殺されていたという。』
このような特徴的な論争は、その後いくつも登場し世論を騒がせた。確かにガットマンの報告に対するブロックの批判のある部分は、センセーショナリムに走るジャーナリズムの偏向が、現在のポリテイクスの中で逆の効果を持つという問題を指摘したものだった。が、しかし、ブロックにしてみてもセルビア人の暴力は否定できないのだ。にもかかわらずブロックの批判は、ジャーナリムの職業的自己抑制には関わるが、結果として、脱出してきた人々の証言の多くの実在性すら虚偽証言として否定することになる。つまり、偏向したジャーナリズムの批判に終始するため、生き残って証言する人々に対する関係は断ち切られ、肝心な取り上げられるべく問題が隠蔽されてしまうのだ。
旧ユーゴから亡命した作家ウグレシイチは「バルカンブルース」(原題・「嘘の文化」)の中でこう語っている。「旧ユーゴスラビアの戦争は、86年以後に短時間に再生したナショナリズムがもたらした「嘘の文化」のうえに生まれたものであり、またそれ自体が無数の「嘘」に満ちている。」と。では、このような「嘘の文化」の中で、実在すら希薄になる時に、我々はいかなる判断を下すべきか。こういった困難な状況下で我々に要求されることは何であろうか。それは、この紛争に責任のある原因が一つしかない(セルビア政府とその同盟者たち)といったような、あるいは単純な対称形をなす民族主義がそれぞれに存在するといった、間違った分析方法を避けることであり、またブロックのように、その分析を指摘するにとどまるのではなくこの場合戦争についての複数の要因に基づく分析を提案しなければならないという事だ。
Writing in Summer/2001
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