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「命のカケラ」
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いつものように地下鉄のホームで電車を待っていると、よたよたと力なく何ものかが飛んでいた。隣のホームから発車した電車の追い風にのって飛ばされてきたようだった。そして、ふうっと目の前で一回転した後、よれよれ足元で力尽きた。 相変わらずの霞んだ私の目には、対象を識別するのに時間がかかった。が、ここに居るべきものでないことは察しがついた。何故迷い込んだのだろう?こんなに暗くてじめっとしていて、実りの糧などない アンダーグランドへ。「ヒルフェ!(助けて!)」。異国の地で、私が切羽詰まって発したことばを思い出した。きっと必死で訴えかけているに違いない。「たすけて!」と、言葉には出せなくとも。手を差し伸べようとしたその瞬間、ゴーっという電車の音と共に再び突風が吹いた。そして、ぐったりとした彼の肢体は宙に巻き上げられ、無残にも闇の中へ消えていった。あまりの儚さに「ああ無常」。そんな言葉しか見つからなかった。
ブラックホールの中へ散っていく命の姿を想像していたら、突如ある記憶が蘇った。小学校上がりたてだったろうか、ある年の夏、父に連れられ家族で沖縄の離島へ滞在していたときの出来事だった。私たちは民宿の二階に居候していた。その年は例年にない程台風が多かった。二階から外に出るのに屋外にある階段を利用していたのだが、台風の時はドアが吹き飛ばされないよう、外からベニア板をバッテンに交差させて塞いでしまうので、中にいる私たちはほとんど嵐が去るまでの間は缶詰状態であった。
少し晴れ間の見えたある日、一人で勇んで外に飛び出したことがあった。すると、階段の真横にある物置の屋根に、一羽の鳩が横たわっているのが見えた。ときどきぴくっと痙攣して身悶えているようだった。私はどうしても助けたくて仕方なかったのを覚えている。死に絶えている鳩の亡骸など、家の近所で幾度も目にしたことがあったのに。何故だろう?誰にも気づかれず雨にさらされ、ひっそりと孤独な死をとげるであろうこの一羽の鳩を、どうしても見放すわけにいかないと思ったのだ。今思うと、自分より弱く儚いな存在が、私に救いの手を差し伸べているのだと感じた、初めての経験だったように思う。大人に話すと止められるはずだと思い、なんとか自力で二階の手すりを跨り、2メートル下の物置の屋根へ飛び下りた。幼い私にとっては大冒険だった。そして鳩を片手で抱えて、今度は物置から地上へ飛び下りた。命がけのダイビング、無事着地。そして、民宿の誰も居ない部屋へ忍び込み、こっそりと鳩を服にくるんで温めた。しかし私の介抱の仕方がまずかったのか、決死の努力の甲斐もなく、鳩はあっという間に息を引き取ってしまったのだ。
奇跡の生還を本気で信じていた私は、本当に悲しく、非力な自分にがっくりうなだれたのだった。幼いながらもそんな自責の念から、せめて墓に埋めて供養したいと思い、亡骸をハンカチに包んで港の砂浜へ向かった。ここに居る間は毎日拝みに来ようと誓い、埋めた場所がわかるようにアイスキャンディーの棒を挿して帰った。次の日雨が降ったので、墓のことが気がかりだった。夕方雨が上がったのを見計らって、大人たちの目を盗み再び墓を訪れてみた。しかし、私は目を疑った。あまりのショックに呆然と立ち尽くしていたのを覚えている。雨を心配するどころか、満ち潮の波に飲まれて浜のほとんどが海面に被われていたのだ。
哀れな鳩の亡骸は、寄せては返す波に打たれ、漂っていってしまっていた。そんな、大海の泡粒の一つになり、深い闇へと消えて行った遠き鳩の亡骸を、今日別の闇へと消えた一つの儚い命に重ね、再び思うのだ。
ああ、無常・・・
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